ファイル暗号化とは?開発企業が導入時の比較・チェックポイント等をわかりやすく解説

最終更新日:2025年4月21日

ファイル暗号化とは?

ファイル暗号化は、データファイルを特定の暗号アルゴリズム(AESやRSAなど)に基づいて変換し、第三者が内容を読み取れないようにする技術です。暗号化されたファイルは暗号化を解くための復号鍵を所有している人だけが元に戻すことができます。ファイルを暗号化することで、サイバー攻撃や内部不正の被害に遭い情報が盗み出されても情報漏洩を防ぐことが可能です。このように、ファイル暗号化は「侵入や流出を前提としたセキュリティ対策」であり、セキュリティの“最後の砦”とも言われています。

ファイル暗号化の仕組み

ファイルを暗号化する際には、共通鍵暗号方式や公開鍵暗号方式が用いられ、特定の鍵を持つ者のみが復号できます。共通鍵暗号方式では、同じ鍵を使って暗号化と復号を行い、公開鍵暗号方式では異なる鍵(公開鍵と秘密鍵)を使用します。企業や組織では、データ保護のためにファイル単位やフォルダ単位で暗号化を施すケースが増えています。

平文を暗号文に変換することで、第三者にはファイルを読み解けなくすることができることを示した図
平文ファイルを暗号ファイルに変換することで、関係のない第三者による不正なファイル利用を防ぐことができる

なお、共通鍵暗号方式(対称鍵暗号)、公開鍵暗号方式(非対称鍵暗号)、ハイブリット暗号方式、独自の暗号アルゴリズムの安全性などについてご興味のある方は、下記の関連コラムで詳しく説明しています。

ファイル暗号化と他の暗号化ツールとの比較

暗号化の対象にはさまざまな種類があり、それぞれ異なるセキュリティリスクを軽減するために活用されます。以下では、通信の暗号化、ハードディスクの暗号化、USBメモリーの暗号化などの代表的な暗号化手法について、それぞれが防げるリスクや期待できる効果を整理しています。

暗号化対象防げるセキュリティリスクと効果
通信通信の暗号化は、データが送受信される際に暗号技術を使用し通信内容を保護することで、通信傍受(盗聴)などによる情報漏えいを防ぎます。
SSL/TSLを用いたウェブサイトのHTTPS通信や、VPNを用いたリモートアクセスなどが該当します。
ハードディスクハードディスクの暗号化は、データが保存されているディスク全体を暗号化することで、PCの紛失や盗難による情報漏えいを防ぎます。
「Windows10 Pro」以上のPCに標準搭載されているBitLockerなどが該当します。
USBメモリーUSBメモリーの暗号化は、USBドライブに保存されたデータを保護します。
暗号化されたUSBドライブを使用することで、USBメモリー持ち運び時の紛失や盗難による情報漏えいを防ぎます。
共有フォルダファイルサーバなどの特定のフォルダを暗号化保護します。
フォルダ内で管理されているデータがサイバー攻撃により盗み取られるのを防ぎます。
ファイル個々のファイルそのものを暗号化保護します。重要なファイルや機密データを暗号化することで、
サイバー攻撃や内部不正、メール誤送信、紛失・盗難、委託先からの漏洩など情報漏えい全般に幅広く対応することができます。
データベースデータベース内に保存されているデータを暗号化保護します。データベース全体を暗号化する方法や、
特定のカラム・フィールドを選択的に暗号化する手法があります。データベースへの不正アクセスなどから漏えいを防ぎます。

ファイル暗号化のメリット

ファイル暗号化のメリットは、サイバー攻撃や内部不正、メール誤送信、紛失・盗難など幅広いセキュリティリスクに対応が可能な点です。その理由は、ファイルの場所に関わらず、どこにあっても常にセキュリティが維持される点にあります。ファイルが外部へ流出した理由に関わらず、暗号化されていれば流出先ではファイル内のデータを読み取ることができません。また、海外子会社や業務取引先へファイルを送る際も、暗号化して送れば安全なやり取りが可能です。

ファイルそのものを暗号化すれば流出後もファイルを守ることが可能なことを示す図
サーバ内のファイルを暗号化しておけば、ファイルがどこに移動してもセキュリティが維持される

これに対して、ハードディスクや共有フォルダの暗号化は、特定の場所に依存したセキュリティとなります。これは、ファイル自体は平文(暗号化されていない状態)のままであり、暗号化された安全な領域からファイルを取り出すとセキュリティを保つことができないからです。そのため、ハードディスクや共有フォルダへの不正アクセスや正規のアクセス権限を持つ従業員が悪意をもってファイルを持ち出した場合、情報漏えいを防ぐことができません。

共有フォルダの暗号化だと流出後はファイルを守ることができないことを示す図
ファイルは平文の状態なので暗号化領域から出してしまうと情報漏えいを防ぐことは出来ない

ファイル暗号化で個人情報保護法の報告義務を回避できる?

2022年4月に全面施行された改正個人情報保護法では、漏えい等が発生した際の個人情報保護委員会への報告、本人への通知を義務付けています。しかし、「個人情報の保護に関する法律についてのガイドライン(通則編)」※1 には、下記の記述があります。

なお、漏えい等が発生し、又は発生したおそれがある個人データについて、高度な暗号化等の秘匿化がされている場合等、「高度な暗号化その他の個人の権利利益を保護するために必要な措置」が講じられている場合については、報告を要しない。

「個人情報の保護に関する法律についてのガイドライン(通則編)『3-5-3-1 報告対象となる事態』」より一部抜粋

上記に記載されているように、万が一漏えい等が発生した場合でも、「高度な暗号化」でファイルを秘匿化していれば報告義務が免除されます。

ただし、高度な暗号化を実現するためには、①電子政府推奨暗号リスト等に掲載されている安全な暗号アルゴリズムを使用すること、②データと鍵を分離し、さらに鍵自体の漏えいを防ぐための措置を施すことなどの条件があるため、適切な暗号化システムを選定しなければならないことに注意が必要です。

ファイル暗号化の実践方法

ファイル暗号化の方法には、OS標準機能や専用ソフトウェアを利用する方法があります。Windowsでは「EFS(Encrypting File System)」を使用してファイルを暗号化できます。また、市販の暗号化ソフトを用いることで、AESやRSAなど強度の高い暗号アルゴリズムでデータを保護する手段もあります。ファイルを個別に暗号化する方法として、パスワード付きZipファイルを作成することも一般的です。しかし、その場合は、大文字、小文字、数字、特殊文字などを組み合わせた強力なパスワードを設定したり、ファイルごとに異なるパスワードを使用するなど、適切な管理が求められます。

ファイル暗号化の課題やリスク

企業の情報セキュリティ対策として、ファイル暗号化は欠かせない手段の一つです。暗号化すれば万全というわけではなく、運用上の課題やリスクも存在します。ファイル暗号化を導入する際に注意すべきポイントは下記になります。

セキュリティ面での課題

ファイルが保管時に暗号化されていても、利用時には復号が必要となるため、そのタイミングが情報漏えいのリスクになります。例えば、復号後に再暗号化を忘れると、平文のままファイルが残ってしまい、意図せずファイルサーバやクラウドに保存される可能性があります。また、正規の復号権限を持つ従業員が悪意を持ってデータを持ち出し、内部不正につながるケースも考えられます。

加えて、暗号鍵の管理も重要な課題です。暗号鍵が盗難・漏えいすれば、攻撃者が正規の手順で復号し、機密情報を容易に取得できてしまいます。特に、パスワードベースの暗号化では、脆弱なパスワードが狙われやすく、不正アクセスのリスクが高まります。鍵の保管方法やアクセス権の管理を徹底し、厳格なセキュリティ対策を講じることが不可欠です。

運用面での課題

ファイルを開くたびにパスワード入力などが必要になると、業務の手間が増えてしまいます。また、復号したファイルを再暗号化する作業も負担となり、従業員に運用ルールを徹底させるのは容易ではありません。

このように、ファイル暗号化には一定のリスクと課題が伴います。セキュリティと利便性のバランスを考えながら、適切な運用ルールを設計し、従業員が無理なく実践できる仕組みを整えることが重要です。

ファイル暗号化の課題への解決策「IRM」

ファイル暗号化における課題を解決する手段の一つとして、「IRM(Information Rights Management:情報権限管理)」があります。

IRMは、ファイルの暗号化に加え、閲覧、編集、印刷などの利用権限を細かく制御できる技術です。IRMの大きな特徴は、ファイルを暗号化したまま利用できる点にあります。従来の暗号化では、ファイルを開く際に復号する必要がありますが、IRMは復号のプロセスを挟まずに、暗号化された状態のまま閲覧や編集が可能です。そのため、復号後のファイルが漏えいしてしまうリスクがなく、情報漏えいの可能性を大幅に低減できます。

また、IRMはパスワードベースの暗号化とは異なり、暗号鍵はデータとは別の場所に分離し、強固なセキュリティの下で管理されます。この仕組みにより、パスワードが流出して不正アクセスされるリスクを防ぎ、より安全にデータを保護できます。さらに、IRMを使用すれば、ファイルを開くたびにパスワードを入力する必要がなく、従来通りダブルクリックで簡単にファイルを利用できます。パスワード管理の手間も不要となるため、利便性を損なうことなく高いセキュリティを確保できます。

このように、IRMは従来のファイル暗号化の課題である「復号時の情報漏えいリスク」や「パスワード管理の負担」を解決する有効な手段の一つです。企業の情報漏洩対策として、IRMの導入を検討してみるのはいかがでしょうか。

ファイル暗号化を導入する際の比較・チェックポイント

ファイル暗号化を導入する際には、「とりあえず暗号化」ではなく、運用や管理、サポート体制なども見据えた上での慎重な選定が重要です。実際、弊社でもファイル暗号化製品の開発・導入支援を行う中で、導入後に「うまく運用できず使われていない」といったケースや、単に「セキュリティ対策をしているという“アリバイ作り”のための導入」で終わってしまうケースを見かけることがあります。

せっかく導入するなら、長期的に効果を発揮させたいもの。そのためには、導入前の段階で製品をしっかり比較・確認し、運用や運用体制の設計が正しくなされているか見極めることが重要です。以下に、導入前にチェックすべき主なポイントをまとめました。

  • 暗号アルゴリズムの信頼性

暗号アルゴリズムは暗号強度(暗号の破られにくさ)に直結します。製品選定時は、電子政府推奨暗号リスト※2 にある信頼性の高いアルゴリズムを採用している製品を選びましょう。なお、企業が独自に開発した暗号アルゴリズムは一見安全性が高そうですが、脆弱性の検証などが十分に行われていない可能性があるため注意が必要です。

  • 対象ファイルの適用範囲

製品を導入する前に暗号化が必要なファイルに対応しているか確認が必要です。製品によっては、特定のファイル形式やサイズの制限がある場合があります。自社で保有する機密情報が暗号化の対象外である場合、セキュリティ対策としての有効性が損なわれる可能性があります。

  • パフォーマンスへの影響

暗号化ファイルをオープンする際は必ず復号(暗号化解除)が挟まるため、パフォーマンスが低下する可能性があります。導入の際は必ずトライアル期間を設け、業務への影響が問題ない範囲に収まっているかを確認した上で、パフォーマンスのよい製品を選びましょう。

  • 従業員への影響

暗号化によりファイルの拡張子が変わる製品もあります。拡張子が変わると、既存のショートカットリンクが機能しなくなったり、Excelのマクロが動作しなくなるなど、様々な不具合が生じ、従業員に負担がかかる可能性があります。 また、ファイルのアイコンが変わる製品では、今まで使用していたファイルが直感的に識別できず、混乱を招くことがあるため注意が必要です。

  • システム管理者の負担の軽さ

暗号化導入により、システム管理者の負担が増加しないかも重要な検討項目です。特に、新入社員の受け入れや異動・昇格が集中するシーズンは、アクセス権の付け替え作業が増え、管理が煩雑になりがちです。例えば、退職者の権限削除のし忘れなどのミスが発生すると、セキュリティリスクが高まる恐れがあります。そうしたリスクを避けるには、管理が容易で、運用負荷を最小限に抑えられる仕組みを選定することが望ましいです。

  • 既存システムとの互換性

暗号化を導入することで、既存の業務システムに影響が出ないかを事前に検討する必要があります。特に、全文検索システムなどを利用している場合、暗号化によって検索機能が使えなくなる可能性があります。また、他のセキュリティシステムやクラウドストレージとの連携が必要な場合、暗号化による制約が発生しないかを確認しておくことが重要です。

  • サポート体制の充実度

ファイル暗号化は、業務で日常的に使用するファイルを保護するための手段です。そのため、運用中にトラブルが発生した場合、迅速に対応できるサポート体制が求められます。例えば、暗号化されたファイルが開けなくなったり、アクセス権の管理ミスが発生したりした場合、解決までに時間がかかると業務に支障をきたします。導入する暗号化ソリューションが十分なサポート体制を備えているか、問い合わせ窓口の対応速度やサポート内容を事前に確認することが重要です。

ファイル暗号化・IRMシステム「DataClasys」とは?

「DataClasys(データクレシス)」は、当社が自社で開発・販売する純国産のファイル暗号化・IRMソリューションです。高いセキュリティ基準が求められる官公庁や自治体をはじめ、製造業、金融業、教育機関など、幅広い業種に採用され、2025年4月時点で1,000社以上の導入実績があります。

長年にわたりファイルセキュリティ分野に携わってきた経験をもとに、日常の業務に支障をきたさず、かつ確実に情報を保護するための実運用に耐える設計が高く評価されています。以下では、DataClasysの特徴をまとめてご紹介します。

  1. ファイル形式やサイズに依存せず、あらゆるデータを暗号化できます。他社のIRM製品では対応が難しいCADデータや大容量の動画ファイルなども暗号化可能です。
  2. 暗号化してもファイル名・アイコンおよび拡張子に変化がありません。
  3. 暗号化状態を保持したままダブルクリックでファイルを利用できます。
  4. ファイルサーバの共有フォルダの自動暗号化が可能。さらに、PCで新規作成したファイルやUSBメモリー等にファイルを出力する際に自動で暗号化することも可能です。
  5. 暗号化/復号/完全消去/閲覧/更新/削除/ファイル出力/コピー&ペースト/印刷/スクリーンショット/メール添付/メール送信/ウェブ送信 の権限設定が可能です。
  6. 暗号化されたファイルに有効期限を設定することが可能です。期限を過ぎたファイルは一切開けなくなります。
  7. システム管理者はサーバへの利用者設定変更のみで人事異動・退職等に対応できます。(予約機能付き)
  8. ActiveDirectory連携でのユーザ情報同期が可能です。
  9. 全文検索や文書管理、PLM/PDM、バックアップ、クラウドストレージなど他のシステムとの連携が可能です。
  10. 純国産・自社開発ならではの迅速なサポートが可能です。また、導入の際は弊社のDataClasys専任スタッフが設計・構築作業からサポート致しますのでご安心ください。

DataClasysによるファイル暗号化や情報漏洩対策についてご興味ある方は、下記より是非お気軽にお問い合わせ下さい。

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製品資料
DataClasys説明資料
機密情報ファイル 保護・管理システム「DataClasys(データクレシス)」の資料です。
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導入事例集
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参考

※1 個人情報の保護に関する法律についてのガイドライン(通則編)| 個人情報保護委員会 2016年11月(2022年9月一部改正)

※2 CRYPTREC暗号リスト(電子政府推奨暗号リスト) | CRYPTREC

著者

データクレシス マーケティングチーム

セキュリティ分野における最新情報や重要なトピックスを発信するコラムです。企業の情報セキュリティに役立つ知識をお届けします。

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